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3 エドアルド

Aвтор: あさじなぎ
last update Последнее обновление: 2025-11-20 22:18:15

翌日。

今、アラミラ王国はいわゆる夏にあたるらしくあと三週間もすると夏休みになるそうだ。

その前に前期の試験がある。

ってことは、試験に向けた課題とか出されるんだよな……そう思うと気が重い。

ここゲームの中なんだろ?

なんでゲームでも課題に苦しむことになるんだよ。

俺は今日も妹のマリアと一緒に車で登校する。

マリアは制服があり、セーラー服みたいな服を着ているけど、大学生である俺には制服がない。とはいえ服装を考えるのが面倒だから、俺は黒のスラックスに白の半そでシャツ、ベストを着て大学に行っていた。

「……それでね、最近殿下とお話しする機会が増えたの」

学校に向かう車内でマリアがそう言いだした。

殿下っていうのは俺たちの従兄弟で王太子であるマルセル殿下だ。

今年で十八歳になる高校三年生。長めの金髪に青い瞳の優しげな青年だ。

突然現れた従兄弟である俺たちを、暖かく受け入れてくれている。

俺は週に一度、一緒に食事をとる時しか会わないけど、マリアは学校で顔を合わせるんだろう。

「あれ、学校じゃあ殿下って呼ぶの禁止されてるんじゃなかったっけ」

「そうそう。学校では身分は関係ないから、みんな『さん』付けで呼んでるんだけど……マルセルさん、って呼ぶの、さすがに恐れ多くて」

そう言って、マリアは苦笑する。

それはそうだよな。

俺たちがここに引き取られたのは三月。

その前まで王家なんてスゲー遠い存在で、話題に出るとしても様付が当たり前だったもんな。

国王の弟が失踪した話は聞いたことあったけど、まさかそれが父親だとは思わなかった。

「不安だったけど、学校の生徒の大半は私と同じ平民出身だし、友達もできてよかった」

言いながらマリアは笑う。

よかった。

超田舎の庶民でだから、マリアがちゃんと受け入れられるかって心配だったんだ。

「お兄ちゃんはどうなの、大学」

「うえ?」

妹の、大きな緑色の瞳がじっと、俺を見つめる。

「お友達できた?」

できてません。

むしろ浮きまくってます。

そんな事言えず、俺は目を泳がせて呻る。

そこから察したのだろう。マリアは心配そうな顔をして言った。

「大丈夫、苛められてない?」

「そんなことあるわけないだろ」

平民育ちとはいえ、国王の甥にあたる相手をそうそう苛めたりしねえだろう。

「ならいいけど」

「俺の心配はいいから、お前は高校生活楽しめよ」

言いながら俺は妹の頭を撫でた。

するとマリアははにかんでうん、と頷いた。

そして車が止まり、俺は妹と別れて大学へと向かう。

エドアルド……どうやって俺の妹と接点もつんだろ?

俺が家に連れて行くとかするのかな。それとも文化祭とかで顔を合わせるとか?

全然想像つかないや。

そもそも妹がやっていたゲームだから俺が知っているわけないんだよな。乙女ゲームなんてやんないし。

攻略対象のキャラ、同級生や先輩、大学生に王宮の騎士、それに先生も含まれていたような……

……先生はどうかと思うんだけど。王子だって従兄弟だろ? どうなんそれ。

そんな事を考えながら、俺は講義が行われる講義室へと向かった。

ざわめく室内に入り、俺は自然とエドアルドを探す。猫、どうなったんかなあ。

そもそもこの講義で一緒かわかんねえや。

そう思いいたり、俺は空いてる端の席に腰掛けた。

教科書をトートバッグから出してパラパラとめくる。

どうやら俺は理科系の講義を中心に受けているらしく、数学やら生物やらの教科書が多かった。

今回は化学の講義だ。

あとファンタジー世界っぽく魔法の授業も存在する。

教科書を見ながら俺は、どうしたらこの世界から出られるのか考えた。

ゲームクリアしたらいいのか?

でもこの物語の主役はマリアだよな。俺じゃない。

彼女がハピエン迎えたらいい? え、物語の最後っていつ? 卒業までか?

でも俺はどういう役割?

え、わかんねぇんだけど。

ルカとしての意識と春野京佑としての意識があるのに、俺自身に与えられた役割が全然分かんねえ。

考えながら俺は頭を抱えた。

あー、わかんないってスゲーストレス。

その時、なんだかちょっと変わった甘い匂いがした。

何だこの匂い……香水……? 花じゃねえよな……

甘さの中に爽やかさを感じる匂いだ。

「おい」

不意に声をかけられてびくっとして俺は顔を上げて声がした方を見た。

机の横にエドアルドが立っていた。

どうやら匂いの主はこいつらしい。

「え、あ……え、エドアルド……さん」

「なんだ、その呼び方。エドアルドでいい」

呼び方がわかんなくて思わずさん付けしちゃったけど、不自然か……

っていうかこいつ何歳だろ? 一年休学してたって話だから、二十歳以上だよな……

彼は俺を見下ろして言った。

「お前、いつもひとりなのか」

「え? あー……うん、まあ」

言いながら俺は苦笑いする。

俺が王位を狙っているだとか、金目当てだとか。そんな噂が流れてることはなんとなく知っている。

付き合いたくない相手と付き合うつもりなんてないし、ひとりのほうが気楽は気楽だ。

「何で」

「何でって、別にいいじゃないかそんなこと」

そう答えながら俺は下を俯く。

いいや、それよりもだよ。俺は顔を上げてエドアルドを見て言った。

「お前こそ、いつもひとりじゃねえの?」

「そんなに俺のことを見ていたのか?」

そう言われると、顔が一気に熱くなるのを感じた。

「み、見てねえし」

言いながら俺は首を横に振る。

するとなぜかエドアルドはにやっと笑い、

「へえ」

なんて言う。

「っていうか何の用だよ?」

「見かけたから声をかけただけだ」

「それって何の用もねえってことじゃねえか」

俺が言うと、エドアルドは笑いながら言った。

「まあ、そうだな」

そして彼は、俺の前の席に座った。

甘い匂いがなおさら強く香ってくる。嫌な匂いじゃないけど……なんの匂いだこれ。

「なんで前に座るんだよ」

「別にどこに座ってもいいだろう」

そして彼は、バッグを下ろして教科書などを取り出す。

なんなんだろうこいつ。気になるけど、でもこいつマリアの攻略対象なんだよなぁ……

あーどうやって俺の妹と接点もつんだよ?

気になりすぎるんだけど? って俺、いつの間にかルカとしての意識が強くなってるのかも。

俺は春野京佑……だよな? うん、日本での記憶がちゃんとあるし。

なんか俺、自分が何なのかわかんなくなりそう。

俺の目標は……この世界から脱出すること、だよな。

マリアがハピエン迎えられれば帰れるなら、何とかして俺はあの子が幸せになるようにしないと。

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